DEMO実証調査事例

離島の地理的特性によらないスマート給餌機と海上通信を活用した水産養殖業の体制構築の検証

広域連携型:長崎県五島市(島山島)、熊本県天草市(御所浦島)

概要

島の課題

  • 飼料代・燃料代:養殖コストのうち5〜7割が飼料代が占め、離島では運送費によりさらに高額になる。また生簀が遠方の場合があり、船の移動コストも高額になる。
  • 労働力の減少:若者の島外流出や高齢化による労働力不足により養殖事業者の経営体数は減少し続けている。
  • 実装環境:上記課題の解決にはスマートデバイスの活用が有効だが、通信インフラは島ごとに異なり、環境に適した個別システムを構築すると採算性が低くなる。

位置図

調査体制

取組概要

  • 給餌方式とインフラ環境が異なる2つの実証地においてスマート給餌機を用いてマダイを養殖し、給餌量最適化、燃料費削減、労働負荷軽減、魚の成長性などを調査する。
  • 離島環境条件にかかわらず提供可能なスマート技術パッケージを確立し、他離島への横展開の基礎を作る。

目指す姿・期待する効果

様々な環境の離島で、横展開・採算性のある洋上スマート技術を確立し、給餌量削減、生産効率向上、労働負荷軽減などの経営ボトルネックを解決し、持続可能な産業モデルを構築する。

環境に依存しない実装形態を構築、他地域への普及・さらなるスマート機器導入へ

  • あらゆる養殖事業者が活用できるよう、環境に依存しないスマート給餌機の実装形態を確立。かつ採算性のある横展開を実現し、スマート給餌機導入のハードルを下げる。
  • 洋上の通信ネットワーク構築及びスマート給餌機運用モデルを作り、様々なスマート機器導入の呼び水とする。

離島の養殖経営ボトルネックを解消し、持続可能な基幹産業へ

  • スマート給餌機の管理により、養殖業最大のコストである餌使用量を20%削減。副次的効果で餌の運搬頻度を低減し、CO2排出量削減32%に寄与。
  • 魚の生育データ活用により、生簀への移動を減らし、危険を伴う海上作業を50%減らすことで労働環境を改善。

関係者人口増加の基礎を築く

  • 適地である離島の養殖の担い手を増やすべく、自動・遠隔で管理する生育システムを実装し、離島外の人材でも魚の管理ができる環境を構築することも可能である。
  • 生簀の遠隔管理により都市部の消費者が共同オーナーとして養殖事業に参加することが可能になる。島外関係者人口を増やす基盤として離島養殖スマート機器普及率を非離島地域と同レベルまで引き上げる。

主な実証内容

実証内容・検証項目

  1. ①両島の実証漁場へスマート給餌機や通信設備(御所浦島では光通信からWi-Fiルータを接続して通信設備とし、島山島ではStarlink、Wi-Fi、ソーラーパネル、バッテリーからなる独立電源型通信設備を構築)を設置し、スマート給餌機のモバイル通信状況をモニタリングして通信安定を評価した。
  2. ②従来給餌機を用いて養殖した場合、スマート給餌機を⽤いて養殖した場合それぞれの経営指標(餌補給量、海上労働時間、船舶燃料使⽤量、⿂体重)の変化を比較検証した。
  3. ③養殖事業者に横展開可能な養殖向けスマート技術パッケージの形態を構築した。

主な実証結果

  1. ①両島の漁場へ設置したスマート給餌機はそれぞれの通信設備と接続され、安定的な通信を行うことに成功した。
  2. ②最も経済的インパクトが大きい餌補給量は、計測期間の約3ヶ月を通して、御所浦島の漁場で23.4%(1.8トン/生簀に相当)、島山島の漁場で15.4%(400kg/生簀に相当)削減した。御所浦島における削減量を金額換算すると約50万円となる。
  3. ③海上労働時間、船舶燃料使用量については、御所浦島でそれぞれ約40%、島山島ではそれぞれ約60%削減できた。

成果と課題

成果

  • 給餌方式及びインフラ環境が異なる状況下で安定的にスマート給餌機と通信設備を稼働させることができ、どのような離島環境であっても、養殖事業者向けに横展開可能なスマート技術パッケージを確立できた。
  • 両島の漁場において魚の成長性は同等を保ちながらもコスト削減を達成し、養殖経営のボトルネック解消に⼤きく貢献した。設備導入費・利⽤費のコストを含めても、これらのコストダウン効果は著しく⼤きく、採算の取れるパッケージ技術として提供可能となった。

課題

  • 養殖事業者が設備導入・設備利用に活用できる補助金等の予算とともに横展開をする必要がある。