DEMO実証調査事例

無人ヘリコプターを活用した離島地域の持続への挑戦

長崎県:新上五島町:中通島

概要

島の課題

  • 近年の地震・大雨等の大規模災害や度々発生する海での水難事故等に鑑み、迅速な情報伝達体制や救助体制の整備が必要。
  • 水産資源の減少が危惧される中、密漁船の高速化等に対抗するための監視体制強化が求められている。
  • 本土との物流について、緊急を要する医薬品等や即時性が求められる生鮮品出荷のための輸送体制構築が課題。
    ⇒ 無人ヘリコプターの活用による島の防災体制の強化や本土との物資輸送の実現により、物流の補完体制の構築が必要

位置図

調査体制

取組概要

  • 無人ヘリによる鮮魚等の物資輸送を実施し、遠隔操縦に係る通信手段の検討やオペレーション省力化等を複数回試行するとともに、商品の販売価格の検証を行い、事業性を確認する。
  • 無人ヘリを活用した水難事故の救助訓練や密漁監視の訓練を実施し、オペレーション、事業性、地域貢献の観点から検証を行う。

目指す姿・期待する効果

無人ヘリを活用した物流体制の確立

昨年度の実証で課題となった運営コストについて、通信方法の見直しや、オペレーションの省力化、商品の適切な販売価格の検証を行い、採算性向上を図ることで本格運用を目指す。

無人ヘリの多用途使用の一環として、密漁監視や水難救助の体制整備へ

漁業者、船舶会社等と連携の上、無人ヘリコプターを活用した密漁監視・水難救助のシミュレーションを行い、有効かつ迅速なスキームの構築を目指す。

※無人ヘリコプターはヤマハ発動機社の「FAZER R G2」を採用
https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/solution/fazer_r_g2.html

主な実証内容

1.無人ヘリを活用した物流体制の確立

実証内容

  • 中通島の鮮魚を無人ヘリを利用し有川港から佐世保まで輸送、その後陸送の上、長崎空港から航空便等使用し最終的に都内飲食店まで当日中に輸送。島内で購入できない弁当を都内より、往路逆ルートで輸送。有川港到着後、地元スーパーで販売。
  • 無人ヘリの輸送価値をどれほど販売価格に転嫁できるか(消費者の受容価格を調査)

検証項目

  • LTEを活用し通信によりどれだけ通信コストを抑えられるか、最小限の人員配置で運航が成立するか等
  • 無人ヘリの輸送価値をどれほど販売価格に転嫁できるか(消費者の受容価格を調査)
  • 輸送で得られる利益をベースに、事業として成立するか検証、救難・密漁監視での利益を含め算出

実証結果

  • 省力化観点で、通信費は86%程削減(対前年比)、人員配置等も含めた全体の工数は35%程コスト削減を実現(対前年比)
  • 販売価格は、仕入れ価格に対し、鮮魚は最大20%程、弁当は通常価格より15%程のプレミアを付けて販売が可能と確認
  • 収支観点では安価なLTE通信の利用や作業工程、人員配置の見直しによりコスト削減を図ってきているが、物流一往復あたり40,000円程の赤字となり、本物流スキームのみでの事業化は困難と確認
  • 一方救難・密漁監視では、船舶1回あたりの費用より、無人ヘリ運航の方が、25%程抑えられることを確認。

成果と課題

  • 輸送費用全てを運賃収入で賄うことは依然困難。まず限界費用部分から賄うことを検討したが、往復45,822円以上の運賃収入が必要
  • 特に島特産品の鮮魚は輸送運賃負担力が高いとの仮説があったが、バイヤー調査結果から往復でも5,000円程の収入が限界であった。
  • へり発着地-空港間配送費用抑制の為にも、空港付近の無人航空機離発着規制の緩和を求めたい

2.無人ヘリの多用途使用の一環として、密漁監視や水難救助の体制整備へ

実証内容

  • 現状漁協が行っている、船舶を使用した救難・密漁監視スキームを無人ヘリコプターで置き換えて運用する。
  • 搭載カメラを通じて映される映像を遠隔モニターで確認しながら、実用に足るか確認する。
  • 密漁者が現れる可能性が高いエリアを、広域に漏らすことなく監視。
  • 位置情報と映像が即時確認できることから、漁協関係者と連携した監視を行うことで、密漁抑止・密漁者早期確保へ繋げる。

検証項目

  • 実際の運用で事故に繋がる可能性はないか
  • どれほどの距離感での撮影が必要か
  • 実証時間内で実施可能か
  • 現状の船舶での運用体制と比較し、無人ヘリ運用における体制の整理 等

実証結果

  • 船舶での監視は、1.5-2時間程度要するが、今回45分程度で完了。救難地点も搭載カメラを通してモニターから明確に把握でき、現状よりも早く発見・救助が可能と確認。1回あたりの費用も約4万円から3万円弱へと削減が可能。
  • 大型監視船で確認出来ないような奥まったエリアについても上空から広範囲視野のカメラで監視が可能。
  • モニタリングを漁協事務所で行うことで、現場から漁協への報告手間が省けることで迅速な通報が可能。
  • 救命具の投下動作において、風況、高度の状況に合わせ、目標スポットへ安全に投下できた。
  • 救助の位置把握についても、カメラ映像で位置を特定でき、素早く救命具投下プロセスへと繋げることができた。
  • 雨天によるカメラへの水滴付着、強風による機体のぶれで映像が乱れる等自然環境の要因により、上空100ⅿでは海面及び海岸の鮮明な画像確認は困難を要した。

成果と課題

  • 船舶運用より大幅な時間短縮となり、救助や密漁者確保の精度をより高めることができると思料
  • コスト分析の結果、実施1回あたりのコストが現行の船舶運用よりも10,000円程抑えられることがわかった(本費用は自治体予算からの捻出を想定)
  • 夜間実施等いかなる状況下でも安定運用の実現、また荒天時に映像が乱れないより高性能なカメラが必要