DEMO実証調査事例

省電力×遠隔技術×クリーンエネルギーで実現する五島スマートアイランド

長崎県:五島市:福江島、嵯峨島、黄島

概要

島の課題

  • 五島市では有人11島のうち6島が無医島であり、医療提供体制は脆弱。特に2次離島地区は医療サービス提供頻度・水準ともに不十分。
    遠隔医療やドローンを使った医療物資輸送の体制を構築する必要がある。
  • 高齢化等による人手不足が顕著であり、また、独居老人も増加しており、事故等による孤独死のリスクも高い。
    人手不足解消のため各種作業の省人化や無人化の手法を検討しつつ、特に、介護・福祉従事者が不足している現状において、新技術を活用した独居老人等の見守り体制の構築等にも活用することが重要である。
  • 現在、五島沖において洋上風力発電の整備を推進中。島内でのエネルギーの地産地消を実現し、石油系エネルギー依存からの脱却を図りたい。
    島内の的確な電力需要の把握と蓄電池も活用した最適なエネルギーマネジメントシステムが必要となる。

位置図

調査体制

取組概要

  • アバターロボットやタブレット端末等を活用したオンライン診療等の体制およびドローンによる検体輸送の体制を福江島と嵯峨島(2次離島)間で構築をし、その有効性等を実証。
  • 市営住宅の水道メーターをIoT化。自動検針により日ごとの水道使用量データを活用することで、離島における島民見守りサービス等、島民のQOL向上に繋がるような付加価値について検証。
  • 2次離島地区をモデルに、EMS設備を使用した島内のエネルギー需要の「見える化」を図る。平時・非常時の電力需要に対して、 AI等を活用し、最適な供給量の調整を実証する。さらに、供給過多の際は廉価で供給するダイナミックプライシングの可能性について調査。

目指す姿・期待する効果

① 無医島における本土水準の医療サービスの提供体制の構築

週1回または月1回の医師派遣による出張診療所で診察や海上条件に左右される定期船での通院を余儀なくされている現状から、オンラインによる診察やドローンによる物資輸送により、医療提供サービスの向上や利便性の向上を実現する。

② 人手不足の解消と新たな生活支援サービスの構築

作業の自動化により省人化を図る。例えば水道検針作業をスマートメーターの導入により自動化することで、当該作業に係る人員不足の解消を図るとともに、使用水量の情報を現地に行かずとも把握できるシステムを構築することで、漏水の早期発見や独居老人の見守りを行うなど、新たな生活支援サービスにつなげる。

➂ 効率的な再生可能エネルギーの地産地消による利用者負担の軽減

非常時(停電)等の蓄電池によるバックアップ体制も整えつつ、高コストとなっている石油系エネルギーから再生可能エネルギーによる電力に転換することで、島民の経済的な負担を軽減し、さらに安定した供給体制を構築。あわせて島内のEVの利用促進も図り、島内のクリーンエネルギーの地産地消を実現する。

主な実証内容

1.遠隔+ドローン技術による地域医療モデルの構築

実証内容

アバターロボットやタブレット端末等を活用したオンライン診療等の体制およびドローンによる検体輸送の体制を福江島と嵯峨島(二次離島)間で構築をし、その有効性等を実証する。

アバターロボットを用いた遠隔診療及び遠隔服薬指導
ドローンの発着場所貝津港~嵯峨島港
ドローンによる処方薬の配送

活用する技術の特徴

  • アバターロボットnewme(avatar-in製)
    遠隔コミュニケーション用ロボット。ユーザーのITリテラシーを障壁としない遠隔医療の提供
  • 物流ドローン(ACSL製 PF-2)
    定期船の時刻によらない適時性の高い処方薬の輸送を可能にする
  • 空のLTEの可視化(NTTdocomo)/ドップラーライダー(メトロウェザー製)
    シミュレーションによる航路上のLTE通信強度等の可視化と、リアルタイムの風向風速の見える化による安全なドローン運航の実現

主な検証項目

  • オンライン診療で完結できる症状と対応可能な患者数の見極めなど、実装に向けた導入効果を検証
  • 住民・利用者アンケートを実施し、オンライン診療への期待や改善点を把握するなど定性的評価を実施

主な実証結果

  • 遠隔による診療、服薬指導を行い、処方薬をドローンによる実患者への配送を実現(これまでほとんど例はない)
  • 処方薬は、本人への確実な受渡しのため地元看護師等の協力が必要
  • 島民への調査では、ドローンのメリットとして、「島外への移動が不要」(75%)、「船の時間によらず荷物が届く」(65%)ことが挙げられ、回答のあった9割弱はドローン導入に期待
  • 高齢者の多い地域では、ITリテラシーの向上が必要
  • オンライン診療、服薬指導、処方薬輸送の一連の対応を実施
  • オンライン診療は12回、服薬指導は78回実施し、医師、患者ともにその満足度は高く、それぞれの負担軽減に繋がることから有効性は高いと評価
  • オンライン診療、服薬指導は、アバターの活用及び看護師のサポートもあり、問題なく対応
  • オンライン服薬指導の際、一部通信不具合の発生ケース確認

調査で見えた課題

  • 採算の確保(特にオペレーションの体制改善)
    離発着地点に計5名を配置したが、採算性確保のためには多頻度利用が必須。そのためオペレーション人員の削減が必要)
  • 島内決済手段の電子化(島内6割が現金決済を希望している中で、オペレーションの省力化のためにも電子決済も必要)
  • 細かな視診や患部の触診への対応など、オンラインでの対応範囲の見極め
  • 通信環境の改善又は不具合への対応

2.省電力通信網(LPWA)による効率化と新たな島民サービスへの活用

実証内容

  • LPWA(Sigfox)を活用した水道検針自動化
  • LPWAデバイスを活用したデータ収集(温湿度)
Sigfox送信端末設置写真
Sigfox温湿度計設置
水道メーター自動検針化により取得できるデータ(例)

活用する技術の特徴

  • 利用技術 LPWA通信網:Sigfoxネットワーク(京セラコミュニケーションシステム提供)
    日本国内の場合、Sigfoxは920MHz帯の仕様免許不要の無線通信用帯域を利用する。※帯域幅は100Hz。低消費電力、低コスト、簡便性が大きな特長で、デバイスの仕様によっては一般的な乾電池で数年間は駆動できる。
  • 利用機材 電子式水道メーター、Sigfox送信端末

主な検証項目

  • 遠隔検針による効率化とコスト低減についての検証
  • 宅内漏水などの発見や水使用量による「見守り」への活用など、Sigfox端末から収集されるデーター利活用方法についての検証

3.エネルギーマネジメントシステムによる島全体の電力需給の検証

実証内容

洋上風力発電などの地域資源を活用するエネルギーの地産地消を目指し、EMSを使用した離島内におけるエネルギー需要の「見える化」を図り、平常時および非常時において電力需要に対して適切な電力供給を行うための可能性について調査を行う。

30分毎のデータ取得を行う電力量計のイメージ
電力需要の平準化や非常時の電力供給を担うEV

活用する技術の特徴

  • 電力需給データ取得システム(エネルギーマネージメントシステム等)の設置により30分毎のデータ取得を行うことができる電力量計を設置

主な検証項目

  • 二次離島を実証場所とした島全体の電力需給検証
    全エネルギー需要を電気とした場合、その量の供給が可能かを検証。また、オール電化に伴う島民の経済的メリットを定量的に評価。
  • EV普及促進実証
    充電料金の低廉化によるEV普及を促す実証試験を行い、その前後でガソリン車ユーザーにアンケート調査を実施。同時に、既存EVユーザーに対する満足度調査なども実施。

主な実証結果

  • 島内8割弱の世帯及び電力消費用の大きい施設から電力データ取得協力を得て、スマートメーター及びEMSにより、30分単位での使用電力量の把握を実現
  • その結果を検証することで、最適な太陽光及び蓄電設備の導入量を確認
  • 黄島では朝、夕に電力需要のピークがあることから、相当程度の蓄電が必要でイニシャルコストが増大する見込み
  • 「見える化」をもとにした、最適な需給調整のあり方が検証可能であることを確認
スマートメータ-等による電力需要を把握

調査で見えた課題

  • 島内でのエネルギーの地産地消にあたっては、蓄電池を利用した供給側だけの調整であれば、その設備導入コストが課題
  • 「見える化」の結果を踏まえた供給側のみならず需要側の調整をすることで、導入コスト低減の可能性
  • 石油系エネルギー依存からの脱却と経済的負担の低減の可能性への理解の浸透と普及が重要